知っていますか?コルセットのメリットとデメリット
ダイエット目的でコルセット(ウェイストトレーナー)を使っている人は少なくありません。私が働くジムでも着用している人をよく見かけます。
しかし、コルセットが体に与える影響についてはあまりよく知られていないのではないでしょうか。
この記事では、パーソナルトレーナーとして働く私が考えるコルセット使用の是非について書いてみたいと思います。
コルセットとは
コルセットとは、体のラインを補正するために使用されるアイテム。400年ほどの歴史があり、その時々の流行りのシルエットに体のラインを補正するために使用されてきました。
16~19世紀頃までは主に貴族の女性のファッションの一部で、ウエストをぎゅっと締め付けて砂時計型の体型を作るものでした。初期のコルセットは、骨や金属と丈夫な生地で作られていて、前をフックで留めて、後ろは調節可能な紐で閉じる作りだったそうです。
その後、技術が進み、金属製のアイレット(紐を通す穴)が開発されると、ウエストを40㎝近くまで絞ることができるようになったため、呼吸ができなくなる人や失神する人が出てくるようになったそうです。信じがたいことですが、そのような症状を貧血だと診断して、患者に鉄剤を与えていた医師もいたのだとか。体を長時間きつい紐で縛っていたことにより変形した胸郭は、美術館にも展示されています。
第一次世界大戦後には、紐をきつく締めるコルセットが時代遅れになり、レントゲンが登場したことでコルセットの有害な影響が明らかになるようになりました。纏足などと同じ変形ファッションであるとして、医学界ではコルセットの使用が非難を浴びるようになりました。
1900年代に入ると「ウエストトレーナー(waist trainer)」と呼ばれるアイテムが人気を博すようになりました。ウエストトレーナーは伸縮性や柔軟性があるものの、コルセットと同様に体をぎゅっと締め付けて砂時計型にするためのアイテムです。
このウエストトレーナーは、近年でも広く出回っています。日本では聞きなれない名前かもしれませんが、美容目的で使用されている「コルセット」がこれに当たります。この記事では、美容目的で使用される同様のアイテムをまとめて「コルセット」と呼びたいと思います。
コルセットのメリット
コルセットにはどのようなメリットがあるのでしょうか。一つずつ見ていきましょう。
メリット①食欲減退・減量効果
コルセットを着用することで体重を減らす人がいます。この体重減少は、汗をかく量が増えることによるものだと考えられています。脂肪ではなく水分量が減ることで体重が減るということです。
コルセットを着用していると食欲がなくなる人もいます。これは、コルセットが胃を圧迫して人工的な膨満感を作り出すためです。お腹周りがぎゅっと締め付けられるので、食べ過ぎの防止にもつながります。着物を着ていると、帯がきつくてあまり食べられないのと同じ原理です。
メリット②一時的な姿勢改善
コルセットを着用すると骨盤を立てた状態が作られるので、猫背の人も「一時的に」姿勢が改善されます。イベントでドレスを着る場合などに、一時的に姿勢をきれいに見せることができます。使っているうちに本来使われるべき筋肉が弱くなっていくので腰痛などの原因になりますが、短時間・期間の着用による害は少ないと考えられています。
メリット③バストアップ効果
コルセットの使用でバストアップ効果が得られる人もいます。その理由は、肋骨をコルセットで締めつけることで、バストの位置が上がるためです。バストの位置が高くなるとボリュームが出て見えるようになります。
メリット④精神的な影響
コルセットを着用することで、食事や運動などの生活習慣を改善しようという気持ちが働く人もいます。
コルセットのデメリット
指に輪ゴムを巻き付けて1時間くらい放置すると、指の形は一時的に変わりますが、輪ゴムを外してしばらく経てば、指は元の形に戻ります。しかし、長期間輪ゴムを巻き付けたままにした場合はどうでしょう。
コルセットを長期間使用することのデメリットが大きいことはよく知られてきています。実際に体型が変わることがないだけでなく、健康面で問題が起こる可能性が高いためです。米国美容整形外科学会(American Board of Cosmetic Surgery)も使用による健康リスクに警鐘を鳴らしています。
デメリット①臓器が不自然な位置に移動する
コルセットを長時間着用していると、胃、肺、肝臓、腎臓などの臓器が締め付けられた部分の上下に動いて、不自然な位置に押し込まれてしまいます。臓器への血流も制限され、臓器の本来の機能が損なわれる可能性もあり、長期的な影響が及ぶことも。胃酸の逆流、消化不良、腸閉塞などが起こることもあります。
デメリット②呼吸器系への影響
コルセットをして深呼吸ができないようであれば、危険かもしれません。臓器の中でも肺への影響が懸念されています。肺は本来空気を取り込むことで広がるものですが、圧迫されて広がりが妨げられてしまいます。体から酸素を奪われると、呼吸が困難になるだけでなく、失神や炎症などにつながります。中には胸郭が変形したり、肋骨を骨折する人もいるそうです。
デメリット③筋力低下と姿勢の悪化
コルセットは背骨を安定させる筋肉を助ける働きをするので、コルセットを着用している間はお腹が引っ込んで姿勢がよく見えます。しかし、コルセットに頼ってしまい自分の筋肉を使わないことになるので、適切な筋トレをしていなければ、時間の経過とともに筋力は徐々に低下していき、腰痛に悩まされたり、背中や胸の筋肉が萎縮する可能性もあります。
デメリット④打撲傷・骨への影響
現代の美容コルセットは、骨の形状に影響を与えるような強度のものはほとんどないと言えますが、骨が未発達な子どもが使用すると、圧迫によって骨の形成や成長に悪影響が及ぶ可能性があります。
デメリット⑤脱水、発疹、感染症
コルセットを着用していると、体温が上がるので汗をかく分、体から水分が奪われます。汗が蒸発しない合成繊維で作られていることが多いので、長時間着用していると皮膚の炎症、発疹、感染症などが起こることがあります。
デメリット⑥神経損傷
コルセットは、神経を損傷させることもあります。特に、太腿の神経に大きな圧力がかかり、太もも外側の痛み、灼熱感、しびれなどが起きることがあります(これは感覚異常性大腿痛と呼ばれます)。通常、着用をやめることで改善しますが、重症になると薬や手術が必要になります。
デメリット⑦心理的な悪影響
ウエストトレーナーには心理的な悪影響もあります。着用している間は砂時計型のボディラインを作ることができますが、外すことで体は元に戻ります。元に戻ることでがっかりする人の中には、想像以上に精神的なダメージを受ける人がいます。理想のボディラインにならないことを苦痛に感じたり、ネガティブなボディイメージを作り上げてしまうことがあります。
デメリット⑧お金がかかる
千円のコルセットも、一万円のコルセットも、体にとって長期的によい変化をもたらすことはありませんが、購入にはお金がかかります。
コルセット着用のデメリットは長期的なものもありますが、長期的なメリットはほぼないと言えるでしょう。痛み、不快感、息切れなどを感じた場合は、体の声に耳を傾けてすぐにコルセットを外すことが重要です。
コルセットを使用すると痩せる?
コルセットを使うことで直接的に体脂肪が減ることはありません。それどころか、リンパ系が締め付けられ、体が老廃物や毒素を排出する能力が妨げられます。
ウエスト部分を締め付けることで痩せると考える人もいますが、締め付けた部分からだけ脂肪が減るということはありえません。
運動中の使用
運動中にコルセットを着用すると動きが制限されるだけではありません。運動中はより多くの酸素が必要ですが、肺活量が30〜60%も減少するので呼吸困難になる可能性があることが研究でも分かっています。また、体液の蓄積や肺の炎症も起こり、コルセットを取り外した後も続く可能性があります。それでも着用する場合は、呼吸が制限されない程度に緩め、めまいや息切れを感じたらすぐに外すとよいでしょう。
産後の使用
産後のコルセットは、妊娠中に起きた体の変化による痛みや不快感を楽にしてくれることがあります。
ただし、出産後は骨盤底筋や周囲の臓器が治癒するまでに時間がかかります。治癒するまでの間にコルセットを使用すると骨盤底に圧力がかかり、失禁や子宮脱などにつながることもあります。
使用を避けるべき例
以下に該当する人は、神経へのダメージや血行の悪化、臓器の移動、筋肉の萎縮などのリスクが上がるので、コルセットの使用を避けたほうがよいでしょう。
- 下肢に痺れを伴う症状のある方
- 妊活中の方、妊婦
- 末端冷え性の方
- 脊椎に問題のある方(側湾症など)
- 反り腰気味の方
- 日常的に動きが少ない、一定の姿勢を取り続ける方
上記に該当しない方も、睡眠中や体調不良時の使用はとても危険です。
医療用コルセット
医療用のコルセットは、美容目的のコルセットとは別物です。医療上の理由でコルセットを着用する人の多くは、専門家のアドバイスと監視の下で着用するので一般に安全だと言えます。
医療用コルセットの使用目的
- 脊柱側弯症による症状の改善
- 関節の過可動性(ハイパーモビリティー)の改善
- 骨粗鬆症による症状の改善
- 腹直筋離開の矯正
- 頭痛の軽減
- 喘息の改善
- 月経困難症の緩和
- ヘルニア予防
コルセットの代わりに…
どうしてもウエストを細く見せたい場合は、数か月かけて段階的にウエストを締め付けていくコルセットよりも、一時的なシェイプウェアを着用したほうが安全性は高いでしょう。
当然ですが、さらに安全性が高いのは健康的な食事と運動です。
余分な体重を減らして長期的に維持し、呼吸を整えて、ストレスを減らし、筋肉を鍛えましょう。
ウエストは細くあるべき?
そもそもウエストは細くあるべきなのか、一度考えてみるのもよいでしょう。歴史的に女性のウエストを細く補正してきたコルセットを、女性の体を変形させる父権社会の拷問器具だと考える人もいます。コルセットの使用は、「ウエストがくびれているほうが女らしい」という固定観念に基づいたものだからです。
実際は、遺伝的にくびれがあまりない人もいます。生まれつきの骨の構造を変える唯一の方法は手術です。アスリートは一般にくびれがあまりありませんが、それは胴回りの筋肉が発達している証拠でもあります。
「こうあるべき」という見た目のために、一つしかない体の機能を犠牲にすることが正しいことなのか、よく考えたいものです。
最後に
私たちはみな異なった体型をしています。砂時計型の体だけが正解ではありませんし、それを目指す必要もありません。健康を犠牲にしなくても、皆それぞれに美しさがあるのではないでしょうか。
コルセットを着用することを選ぶ場合も、メリットとデメリットをしっかりと理解して安全を心がけましょう。