虚偽のヴィーガン・プラントベース表記の恐怖
世界中で菜食人口が増え続けています。脱動物搾取・種差別反対、環境保護、アレルギーや病気の治療、スポーツのパフォーマンスを上げたい、宗教上の理由、健康のためなど、菜食を選択するきっかけは人それぞれ。幼い頃から家族の影響などにより菜食の人もいます。
脱動物搾取・種差別反対の立場から菜食を実践している人たちはヴィーガン。ヴィーガンは日本では”完全菜食主義者”と訳されていることがよくありますが、これは間違い。ヴィーガンは「可能な限り、食べ物・衣服・その他の目的のために動物の搾取を取り入れない生き方」を意味します。食事の話題をしているときに“ヴィーガン”という単語が使われた場合は”完全菜食”、”植物性100%の食事”を意味しますが、本来、ヴィーガンは“脱動物搾取・種差別反対”の姿勢であることが前提になります。倫理的なスタンスを表す単語ですから、人はみな、「ヴィーガン」あるいは「ヴィーガンではない」のどちらかにしかなりえません。完全菜食ではない人が「ゆるヴィーガン」「○%ヴィーガン」「パートタイム・ヴィーガン」などを自称していることがありますが、これらの呼称はヴィーガンの定義を踏まえると奇妙であり、「ゆるヴィーガン」「○%ヴィーガン」「パートタイム・ヴィーガン」という言葉が意味するのは、「ほどほどに殺人に反対する」「○%程度なら暴行を許容する」「虐待には反対だが、パートタイムで目を瞑る」ということ。「ゆる」や「パートタイム」を名乗るのはおかしいことなのです。
もちろん生きている以上、動物の犠牲を完全になくすことはできません。日々の食事が完全菜食でも、外出すれば蟻などをたくさん踏んでしまいます。電車や飛行機に乗ればバードストライクで鳥などが死にます。野菜、穀物、フルーツを作る過程でも農薬などによる犠牲がありますし、 食品添加物や医療の薬は動物実験を経て認可されています。 完全菜食の食事をしていても完全な脱動物搾取にはならないということはヴィーガン自身が一番よく理解していることでしょう。動物搾取をゼロにすることは不可能ですが、それでも最善を尽くすのがヴィーガンであり、ヴィーガンが当たり前のこととして実践する行動の一つが完全菜食の食事なのです。
ヴィーガンと同じく菜食を意味する単語に”プラントベース”があります。プラントベースを直訳すると「植物がベース」であり、“食事法”としてのプラントベースは必ずしも100%の菜食ではなく、「動物性食品をほとんど、あるいはまったく含まない食事」を表します。しかし、食品に“プラントベース”と記載されている場合は、ヴィーガンと同じく、その食品の原材料が植物性100%であることを意味します。
たまに動物性の食材を食べる人はフレキシタリアン。魚介類、卵、牛乳・乳製品などを消費しても肉を食べない人はベジタリアン。動物性の食材の消費を減らすことを意識している人はリデュースタリアン。このようにそれぞれの食事法に名称がありますが、全てまとめて“プラントベース”と呼ぶことができます。“プラントベース”は、思想や実践理由を問わず、動物性の成分を避けた食事を指して使うことができます。
アメリカで販売されている加工食品には、原材料が植物性100%である場合、商品パッケージに”vegan”,” plant-based”の表記が付いているものがとても多く、どのような理由で菜食をしている人にも便利。
ところが、日本で販売されている加工食品には、原材料に動物性成分を含んでいるにも関わらず“プラントベース“などと表記されていることが珍しくないようです。これがどのような問題につながるのか、みていきましょう。
<定義を歪めることの問題>
動物の犠牲を少しでも減らす選択をするのは素晴らしいことですよね。1人の100歩よりも100人の一歩です し、ベターな選択を追求し続ける姿勢を持つ人が増えるのは喜ばしいことです。しかしながら、「よりよい選択をすること」は、「定義を歪めてもよい」ということにはなりません。定義を歪めてしまうと問題が起こる可能性が出てくるのです。
フレキシタリアン・ベジタリアン・リデュースタリアンなどがヴィーガンを名乗っても大きな問題にはならないかもしれませんが、動物性の成分を含んでいるにも関わらず食品企業が商品パッケージにヴィーガンやプラントベースの表記をしてしまうと大問題に発展する可能性があります。
海外には、脱動物搾取や健康目的だけでなく、乳糖不耐症、アレルギー、宗教上の理由などで菜食を選択している人がたくさんいます。誤ってアレルギーの成分を摂取してしまったら命に関わりますし、宗教で禁忌とされているものを口にすることも死を意味します。
これほど重要なことであるにもかかわらず、日本で販売されている加工食品には、動物性の成分を含んでいるにもかかわらず虚偽のプラントベース表示をしている商品が珍しくないようです。プラントベースの表示が付いているのに乳製品や卵など動物性成分を含んでいたり、小さく”ミルク使用”と注意書きがあったり、成分表示を確認するとゼラチンが含まれていたり。たしかにプラントベースを直訳すると「植物がベース」ということになりますが、「植物が主役であれば動物性成分が入っていてもOK」というわけではありません。プラントベースの表示が付いているから購入したのに、かえって動物を苦しめることに加担してしまうという悲劇。「植物性の食材100%で出来ているもの」を意味するのがプラントベースですから、”原材料がほぼ植物性”の食品はプラントベースではありません。動物性食品を含む食べ物に「プラントベース」と表記してしまうと、消費者の誤解や混乱を招きます。
強い主張や衝突を嫌い、曖昧さを重んじる日本特有の国民性の表れなのかもしれませんが、これと同じことをアメリカでやってしまうと、虚偽の食品表示ということになり大問題になります。確かにベジタリアンやフレキシタリアンも広義のプラントベースに含まれますが、アメリカでは「plant based=100%植物性」と認識されているので、プラントベースの表示が付いている加工食品にはゼラチンや蜂蜜も使用されていません。
日本人は英語が苦手であることも影響していると思います。曖昧にして濁すことができるので、日本語の会話では、都合のいいように横文字(英単語)が使われることがよくありますよね。政治家やインチキ臭い詐欺師ほど矢鱈に横文字を使います。日本人は海外のものを取り込んで手を加えるのが上手ですが、元々の意味が分からなくなってしまっては本末転倒です。
<誰も得をしないマーケティング>
ここ数年間で日本の菜食人口が大きく増えていることを感じています。ヴィーガンやプラントベースがトレンドになってきているのは嬉しいことですし、消費者の動向に敏感な食品企業がヴィーガンやプラントベースという単語を使いたがる気持ちも分かります。でも、マーケティングだからといって、そこに嘘や間違いがあってはいけません。
そもそも、インチキなヴィーガン・プラントベース表記をしても誰も得しません。
買い物に行き、ヴィーガン・プラントベース食品売り場が出来ていてワクワクして商品を手に取り、念のために成分表を確認したところ動物性成分が混入していたら、どう思いますか?
菜食の人「え?動物性の成分が入ってるじゃん!買うのや~めた!」
菜食ではない人「ヴィーガン商品を試してみたかったのに動物性の成分も入っているのか~、だったら肉や魚を買うよ」
虚偽のヴィーガン・プラントベース表記に騙されて購入してしまった菜食の人「これでは食べることができないから、動物性食品を食べる友人知人に差し上げよう。二度と騙されないぞ!」
食品企業「全然売れないし製造を中止しよう」
販売店「売れ行きがよくないので取り扱いをやめます」
みんな落胆しますし、このように誰も得をしません。
食品企業だけでなくインフルエンサーがマーケティングの為にヴィーガンやプラントベースの定義を勝手に変えて発信していることもありますが、注目を集めるために定義を歪めてしまうことは自分の首を絞めることにつながるのではないでしょうか。
<どんな料理もプラントベース?!>
そもそも、 動物性の成分が混じっていたら、それはプラントベースではなく普通の料理ですよね。卵や乳製品を含んでいてもプラントベースやヴィーガンの表示をするなら、牛丼も握り寿司も鰻重もプラントベースということになってしまいます。焼き鳥のネギマなどもプラントベース。豚骨ラーメンも麺が小麦なのでプラントベース。レバニラ炒めもプラントベース。ツナサンドイッチも、ツナとマヨネーズ以外の部分はパンや野菜ですから「植物がベース=プラントベース」ということになりますよね。
私は動物性の食材しか食べない人に出会ったことがないので、みなさん既にプラントベースやヴィーガンということになります。アメリカには大の野菜嫌いがいて、彼らはハンバーガーのレタスやトマトを食べずにパンとパティだけを食べますが、彼らもプラントベース。日本の学校給食、コンビニ弁当、駅弁などもプラントベースばかりということになりますから、日本は既に菜食大国。なんという事態でしょう…。
<アレルギーを侮ってはいけない>
ご家族や友人知人に、アレルギーの方はいらっしゃいますか?アレルギーを発症している人を目の当たりにしたことがありますが、蕁麻疹が全身に広がり眼を開けられなくなってしまうほど顔が腫れたり、急に寒気に襲われてブルブルと体が震えたり、想像以上に深刻な事態になります。
アレルギーや日々の体調管理を理由に菜食を選択している人がいますので、菜食の人に軽い気持ちで動物性の食材を提供してはいけません。牛乳と卵がアレルギー源として有名ですが、魚介類なら安心かというと、そうではありません。
例えばヒスタミン中毒。ヒスタミンはアミノ酸の一種が変化した物質で、人体にも魚にも含まれています。魚を常温で放置しておくと、魚についた特定の細菌によってヒスタミンが生成されてアレルギーを引き起こすことがあります。マグロ、カジキ、ブリ、イワシ、アジ、カツオ、サバ、サンマなどが原因であることが多く、中毒を起こすと、食後数分〜1時間ほどで口の周りや耳たぶが赤くなったり、頭痛、蕁麻疹、発熱、嘔吐、下痢などのアレルギー症状が生じます。通常は数時間で症状がおさまりますが、重症になると呼吸困難や意識不明に陥ることもあります。ヒスタミンが生成されると加熱しても減少しませんから、火を通してもヒスタミン中毒の予防にはならないのです。過去にはカツオの缶詰から基準を超えるヒスタミンが検出されてメーカーが自主回収するという事例も起きていますし、日本では保育園や学校が関係する大規模な食中毒も発生しています。
アニサキスによる食中毒も知られています。アニキサス幼虫は、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、イカなどの魚介類の、主に内臓表面に寄生。人間が意図せず口にするとアレルギー反応を生じます。他の食物アレルギーと同じく、蕁麻疹、呼吸困難、喘鳴、腹痛、嘔吐、下痢、そして血圧低下や意識障害により死に至ることもあります。 アニサキスの死骸や分泌物もアレルギーの原因物質となりうるので、魚だけでなくエキスや出汁を使ったもの全てを避けることになります。 握り寿司や刺身だけ避ければよいのではなく、魚の出汁にも注意する必要があるので、レストラン、うどん・蕎麦屋、ラーメン屋はもちろん、旅館の食事や飛行機の機内食などにも要注意。
もし自分がうどん屋で働いていたとして、お客さんに菜食主義者であることを告げられても、「鰹節ぐらいなら大丈夫だろう」と判断してしまいそうですよね。 特にお客さんが外国人の場合、「どうせ昆布椎茸出汁と鰹節の違いを分かるわけがない」などと考えてしまいがち。
でも、これは絶対にやってはいけないことなのです。アレルギー物質を摂取すると死んでしまう可能性がありますから、 気安い判断で菜食の人に動物性食品を提供してはいけません。
卵や乳製品などにアレルギーの子どもを持つ親が、「プラントベース・ヴィーガン」とデカデカと表記している商品を安心して購入し、子どもに与えたら実はアレルギー源が含まれていた…このような事故は、食品企業が虚偽のヴィーガン・プラントベース表記をしなければ避けられる事であり、事故が起きてからでは遅いのです。 これほど大事なことなのに、食品企業は想像も出来ないのでしょうか?
一般人がヴィーガンやプラントベースという言葉を誤って使うのと、 食品企業が動物性成分を含む食品を 「ヴィーガン」「プラントベース」と掲げて販売するのとでは、深刻さが違います。不当表示であり、ひいては犯罪に相当すると思います。 日本では法整備が追いついてないだけで、いずれ大きな問題になるでしょう。
アレルギーは好き嫌いの延長ではありません。アレルギーを理由にプラントベースの食材を選んでいる人がいることを忘れるべきではないでしょう。
<日本の食品企業の体質>
宗教やアレルギーを理由に菜食を選択している人がたくさんいるので、アメリカで販売されている加工食品には、その商品の成分について、とても詳しく説明があります。ウェブサイトを検索すれば、見つけやすい場所に必ず内容成分が表示されています。
アメリカでは、アレルギー人口の多い卵、ミルク、小麦、大豆などの成分は太字で表示されていることが多く、成分表示の下に、「アレルギー源として知られる食材トップ9を使用していません」「この商品は卵、ミルク、小麦、大豆、ナッツを扱っている工場で生産しています」「ナッツは扱っていませんが大豆と乳製品を扱っている工場で生産しています」などの注意書きが付いていることもあり、「成分が混入してしまう可能性がゼロではありませんよ」ということを伝えてくれています。食品企業に商品の内容についてメールなどで説明を求めると、とても丁寧に返事をしてくれます。
一方で私の経験では、日本の食品企業に商品について説明を求めると、内容成分の開示を嫌がられてしまうことがあります。こちらはアレルギーなどを理由に成分について説明を求めているのですが、「隠し味なので企業秘密、社外秘」ということで、詳しいことを教えてもらえないことが珍しくないのです。アメリカの一部の地域で販売されている日本製のプラントベース食品の内容について日本本社に説明を求めた際にも、同じことがありました。成分をできる限り確かめてくれることはあっても、100%の保証をしていただけないことがあり、「確認できない」「企業秘密である」「弊社より成分の詳細やアレルギー反応有無の保証などはできかねます」「担当のお医者様に事前にご相談いただいたうえでご検討いただければ幸いです」などという返答をいただくことが多いのです。魚介類を使用していなさそうなカレー、牛丼、キムチ、焼肉や焼き鳥のたれなどに、魚のエキスなどが使用されていることは珍しくないようです。比較的アレルギー対策を施しているはずのチェーン系の店舗でも、事情はそう変わりません。
<宗教への配慮>
日本を訪れる外国人はとても多く、日本在住者も少なくないですよね。短期間の滞在で日本語の読み書きを習得して加工食品の成分表示を読み取ることは簡単ではなく、「プラントベース・ヴィーガン」という文字だけを覚え、それを頼りに買い物している人もいらっしゃるでしょう。安心して購入した商品に、アレルギーの成分や宗教で禁忌とされている成分が含まれていたら大変です。
アレルギー物質を食べると死んでしまうことがありますが、禁忌とされているものを口にすることは宗教家にとって死を意味します。
イスラム教では豚を食べたら地獄に堕ちるとされています。ヒンドゥー教は牛肉禁止。ユダヤ教には食材の制限がたくさんあります。アメリカで販売されている食品にはコーシャ(kosher)マークが付いているものがよくあり、これはユダヤ教徒が旧約聖書に基づいたユダヤ教の食の規定を満たしていることを意味します。 ユダヤ教では、蹄が分かれており反芻する動物である牛、羊、ヤギ、鹿などは食べられますが、反芻しない動物である豚やウサギを食べることはできません。鳥類では捕食性をもつ鳥である猛禽類やカモメ、カラス、ダチョウを食べることが禁じられています。また、魚介類では鱗とヒレのある魚を食べることは許されていますが、タコ、イカ、鰻、貝類、海老、蟹などを食べることはできません。コーシャを認証する団体があり、食品の成分についてだけでなく、原材料の入手から保管、生産工程、出荷までを通して審査が行われ、合格すれば認定書が発行されるようです。
日本という国は、どうして宗教への理解と配慮が足りないのでしょう?その原因は、日本の生臭坊主にあるような気がします。彼らの出家は形だけであり、焼肉や寿司を堂々と食べ、お酒を飲み、多くの坊主が結婚して子どもを作ります。つまり日本人には「宗教の戒律というのは形だけのものである」という意識が根付いているのでしょう。日本の坊主の多くは好き放題に生活していますが、海外の宗教は在家の信者でも戒律を守っている人がたくさんいます。日本以外の国のお坊さんに、日本の坊主の生活ぶりを伝えると「日本で僧侶になればよかったよ」と冗談を言われてしまうほどです。仏教は戒律に不殺生を掲げていますから、アジアのお坊さんが動物性の食材を食べることは、基本的にありません。
庶民のお手本となるように生きるのが本来の僧侶の役割ではないでしょうか?
<やはり外食するならヴィーガン専門店>
悪気がなくても従業員の勘違いなどで動物性の食材を使用されてしまう可能性がありますから、”ヴィーガンメニューもあるレストラン”での食事にはリスクが伴います。でも、小麦や大豆アレルギーなどでなければ、基本的に誰でもヴィーガン料理を問題なく食べることができますから、ヴィーガンレストランでの食事は安心です。
加工食品には何が含まれているのか分かりませんが、生鮮食品しか消費しないのでホールフードプラントベースはとても安心な食事法。生鮮食品には過剰な包装がないので環境にもやさしい。 健康だけでなく食事の安全性を追求するには、加工食品も消費する”ふつうの菜食”よりも、やはりホールフードプラントベースがよいでしょう。上質な調味料を買い揃えて、ドレッシング、つゆ、たれ、ソースなどを自作すれば市販のものとは安心度が大きく違いますし、成分についてメーカーに質問する手間も不要になるので、買い物が楽になります。ホールフードプラントベース、そしてヘルシーで安心な調味料の選び方については、eBook「PLANT POWER」をぜひご一読ください。
虚偽のヴィーガン・プラントベース表記、一刻も早くやめていただきたいですよね。